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「知っておきたい・基本」シリーズでは、中小企業IT担当者の方にぜひ知っていただきたいIT関連の基礎知識をお伝えします。
前回は「ネットワークの基本」をお送りしました。
知っておきたい「ネットワークの基本キーワード5選」~中小企業IT担当者向け
「知っておきたい・基本」シリーズは、中小企業IT担当者の方に、ぜひ知っていただきたいIT関連の基礎知識をお伝えします。今回のテーマは「ネットワークの基本」。ネットワークの基本を知ることで、自社の課題解決の糸口を見つけていただけましたら幸いです。
今回のテーマは「クラウドの基本」です。
概要だけでなく、少し耳慣れないキーワードもご紹介します。理解を深めていただくと、クラウド利用のメリットがわかりやすくなります。
事例もご紹介いたしますので、自社に合った活用ポイントを見つけていただけましたら幸いです。
なお、YouTubeに解説動画を掲載しております。こちらは概要を10分程度で分かりやすく解説しております。ぜひ併せてご覧ください。
基本1:クラウド
耳慣れたキーワードを改めて解説した後、「クラウド」についてご説明いたします。
- サーバー、クライアント
- データセンター
- クラウド、クラウドサービス
サーバー、クライアント
コンピューターの操作において、「サーバー」はサービスを行う側、「クライアント」はサービスを受ける側の呼称です。

ファイルを管理できるファイルサーバー、ホームページのデータを置いて表示できるWebサーバーなど、さまざまなサーバーがあり、そのサービスを利用するパソコンやスマートフォンなどの端末が、クライアントです。
例えば、メールの送受信はパソコン(クライアント)だけでは行えず、メールサーバーが必要になります。メールサーバーは他のメールサーバーやDNSサーバーと通信し、メールを送受信します。クライアントがサーバーに接続(問い合わせ)をすることで、クライアント側でメールを受け取ったり、送ったりできる仕組みです。

本記事ではクライアントを「端末」、もしくはパソコンやスマートフォンなど、機器名で記載していますが、「クライアント」は覚えていただきたいキーワードの一つです。略して「クラサバ」と呼ばれることもあります。
データセンター
「データセンター」とは、サーバーやネットワーク機器などを設置・管理している専用施設です。
中小企業でも、自社内でサーバーを管理しているケースは少なくありませんが、データセンターであれば、より安全に自社のデータが入ったサーバーを管理できます。
サーバーが社内にあると、物理的な場所を取られるだけでなく、空調で温度管理をしたり、耐震設備を整えたり、保守や管理も必要になります。その点、データセンターであれば、安全な場所でサーバーを管理できるだけでなく、セキュリティ、BCP対策、運用の手間などにメリットがあります。
※参考:データセンターとは(日本データセンター協会)
https://www.jdcc.or.jp/activity/datacenter/
クラウド、クラウドサービス
「クラウド」は、「クラウド・コンピューティング」の略です。データや、アプリケーションなどの、コンピューター資源を、ネットワーク経由で利用する仕組みです。
説明に雲のイラストやアイコンが使われますが、クラウド=雲であり、その語源は諸説あるようです。
これまで、パソコンで業務を行う時はパソコンにインストールされたソフトを使い、同じパソコンにデータを保存することが一般的でした。
このソフトやデータが、目の前のパソコンだけではなく、ネットワークでつながったデータセンターにも保存されており、動作したり連携したりするのが、クラウドサービスです。
データはデータセンターにあるため、そのデータにアクセスできるスマートフォンなど、他の端末からもサービスを利用できます。
基本2:オンプレミス(オンプレ)
「オンプレミス(on-premises)」は、クラウドと一緒に覚えておきたいキーワードです。略して「オンプレ」と呼ばれることもあります。
オンプレミスは、社内や自社が管理する場所にサーバーなどの機器を設置し、システムやソフトウエアをその機器にインストールして運用する状態です。
例えば、社内にサーバーを置き、そのサーバーに経理や販売管理などのソフトをインストールして利用している状態はオンプレミスです。また、パソコンで業務を行う時に、パソコンにインストールされたソフトを使うこともオンプレミスです。
クラウドと対になってこの後も登場するキーワードですので、ぜひ覚えておきましょう。

基本3:SaaS(サース)
クラウドには、いくつかの種類があります。その中でも、中小企業のIT担当者さまが耳にしたことがあるのは「SaaS(サース)」ではないでしょうか。
クラウドサービスの種類
- SaaS(Software as a Service)サース … ソフトウエアを提供
- PaaS(Platform as a Service)パース … プラットフォーム(開発環境、動作環境など)を提供
- IaaS (Infrastructure as a Service)イアース … インフラ(サーバー、ストレージなど)を提供
上記の用語は、クラウドサービスを利用形態によって分けたものです。
多くの中小企業の場合、自社で(本業ではない)社内システムを新規に開発したり、維持・メンテナンスしたりするのは大変手間もコストもかかります。
そのため、人事・経理・販売管理などはその機能に特化したソフトを利用したり、内容によってはWordやExcelを利用したりしているケースが多いと思います。
そのようなソフトウエアを、クラウド上で利用できるのがSaaS(サース)です。
たとえば、Microsoft 365のWordやExcelはオンライン上で操作(作成、編集、共有など)できるソフトウエアです。また、オンライン勤怠管理ツールも、ネット上に勤怠が記録され、そのデータを利用できます。このようなサービスが、SaaSと呼ばれています。
個人で利用するWebメール(YahooメールやGmailなど)も、SaaSです。

浅間商事は、自社で次のようなSaaSを利用しています。
- Microsoft 365:WordやExcel、ビジネスチャット、メール、クラウドストレージ、ほか
- X’sion(クロッシオン):勤怠管理
- オフィスステーション:給与明細
- Unipos:ピアボーナス(従業員同士で感謝を贈りあうオンラインツール)
PaaSやIaaSは主に、開発やインフラ管理などのエンジニアが利用するサービスです。Amazon、マイクロソフト、Googleなどのサービスが有名です。
また、このようなSaaS、PaaS、IaaSといったクラウドサービスを提供する企業は、「クラウドサービス・プロバイダ(CSP)」と呼ばれています。
基本4:クラウド移行
オンプレミス、SaaSをご理解いただいたところで、「クラウド移行」について解説いたします。
クラウド移行とは、社内で運用していた(オンプレミスの)データやシステムを、クラウド上に移動させて運用することです。
本記事では、特に中小企業の皆さまがイメージしやすい2つのパターンでご紹介します。
- 「パッケージソフト」からの移行
- 「サーバー」からの移行
「パッケージソフト」からの移行
自分のパソコンや、社内で共有のパソコンなどにインストールし、利用していたソフトウエアやデータを、クラウドサービスに移行するパターンです。
パソコン購入時のプレインストール版、もしくは買い切りパッケージ版のWordやExcelを、サブスクリプションでクラウド対応のMicrosoft 365に切り替えることは、パッケージソフトからクラウドへの移行と呼べるでしょう。
また、人事給与、財務会計、販売管理ソフトなど基幹系業務関連のクラウド化も増えています。
クラウドであれば、ソフトウエアのインストールが不要、アップデートやデータバックアップも自動で行われるといったメリットがあります。ペーパーレスやハンコレス(押印廃止)により、バックオフィスの電子化の促進にもつながります。
営業交通費の小口精算フローを例にあげます。
すべてオンプレミスの例
- 申請者が営業交通費をExcelフォームに入力→部署内で承認(承認は紙+押印の場合も)
- 事務スタッフが銀行で現金を引き出し、現金を申請者に支給(現金は金庫で管理)
- 事務スタッフから経理部に小口の仕訳をメールで送付
- 経理部は仕訳を会計ソフトに手入力
クラウド経費精算ツール導入と会計ソフトをクラウド化した例
- 申請者が営業交通費をクラウド経費精算ツールでオンライン申請→部署内でオンライン承認
- 経理部が経費精算ツール上でチェック→支払日に申請者に振り込み
- 経理部は経費精算ツールから仕訳を自動作成→クラウド会計ソフトと自動連携
クラウド化したフローでは、事務スタッフの仕訳作業と現金取り扱い、そして経理部での会計ソフトへの手入力がなくなります。クラウド化前の申請と承認の際、紙に押印していた場合は、紙と押印もデジタルに置き換えられます。モバイルパソコンやスマートフォンでも申請・承認できることがほとんどですので、承認のハンコを待つために上司の帰社を待つ必要もなくなります。
一連のフローがより迅速、かつ正確になります。また、現金を取り扱わなくなることによる心理的負担の軽減や安全性も、見逃せない点です。
「サーバー」からの移行
社内サーバーやホスティングなどで自社管理しているサーバーから、クラウドサービスに移行するパターンです。
たとえば、社内のファイルサーバーやNASでデータを管理・運用していたものを、SharePointやDropboxなど、クラウドストレージ(オンラインのストレージ)に移動させ、クラウド上で管理・運用するケースです。
メールのクラウド移行も増えています。自社で管理運用しているメールサーバーや、プロバイダーのメールサービスから、Exchange Onlineのようなクラウドメールサービスに移行するケースもサーバーからの移行と呼べるでしょう。
オンプレミスからクラウドに移行することで、自社内や特定の端末だけでなく、外出先からスマートフォンなどほかの端末からもデータやメールにアクセスできるようになります。
基本5:パブリッククラウド
5つ目のキーワードは、クラウド環境の一つ「パブリッククラウド」についてです。少し専門的なトピックにも触れておきたいと思います。
クラウドと対になるキーワードとして、「オンプレミス」をご紹介しました。時流として、人事給与、財務会計、販売管理などの基幹システムも、オンプレミスからクラウドサービスに移行するお客さまが増えています。
その一方で、「すべてをクラウドに移行しない」事例もあります。クラウドに移行しきれない古いシステムがあったり、機密情報など一部の情報をクラウドに置きたくなかったりなど、理由はさまざまですが、クラウドとオンプレミスを併用し、連携させるケースがあります。
そのようなクラウド環境の違いについて、3つの呼称があります。
- パブリッククラウド
- プライベートクラウド(オンプレミス型/ホスティング型)
- ハイブリッドクラウド
中小企業で主に活用されているクラウドサービスは、一般的に「パブリッククラウド」と呼ばれています。事業者(クラウドサービス・プロバイダ…CSP)が提供しているサーバーやソフトウエアなどを、ほかのユーザーと共有している状態です。
不特定多数のユーザーとの共有に加え、機能のカスタマイズ性は低い傾向にありますが、安価で管理の手間も少なく、中小企業にとって導入および運用ハードルが低いサービスです。

それに対し、企業が自社専用のクラウド環境を構築するケースがあります。このような環境は、「プライベートクラウド」と呼ばれます。さらに、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスを組み合わせるケースもあり、「ハイブリッドクラウド」と呼ばれます。
このように、システムのカスタマイズ性、セキュリティなど、お客さまの状況に合わせて組み合わされることがあります。
ただ、構築や管理のコスト・手間がかかるため、中小企業である浅間商事のお客さまや、当社自身も、「パブリッククラウド」を中心に利用しています。
クラウドの活用
最後に、クラウド利用をより具体的にイメージしていただけるよう、浅間商事のクラウド自社活用事例をご紹介します。
メール、スケジュール共有
2013年頃よりマイクロソフトのクラウドメールExchange Onlineを利用しています。
従来のメールは、送受信したパソコンでしかメールの保存・確認ができませんでした。そのため外出先でのメール送受信が難しく、メールのために帰社する必要がありました。
メールがクラウド化されたことで、端末とインターネットがあれば、どこでも送受信、確認できるようになりました。
また、Exchange Onlineにはスケジュール共有機能があるため、スケジュール情報もクラウド化。外出が多い社内のメンバーのスケジュールがリアルタイムで確認できるようになり、調整が迅速になったり、ダブルブッキングが減ったりといったメリットがありました。
・関連記事:【事例付き】中小企業の「Microsoft Exchange Online活用術」3選
ストレージ
長く自社内のファイルサーバーを利用してきましたが、現在はSharePointをクラウドストレージとして活用しています。
これまで、社外から社内のファイルサーバーに接続するには、VPN接続が必要でした。ストレージがクラウド化されたことでVPN接続が不要になり、端末とインターネットのみでファイルにアクセスできるようになりました。また、Microsoft 365内での連携により、SharePoint上に保存したWordやExcelの共同編集も容易になりました。
なお、クラウドストレージのセキュリティ対策として、多要素認証、社外共有禁止の設定、監査ログの取得などを行っています。
・関連記事:中小企業ができるASAMA流「社内データの運用ルール」 ~Microsoft 365活用の3ステップ~
勤怠管理、給与明細
勤怠管理および給与明細の発行に、クラウドサービスを利用しています。
クラウドサービス導入前、勤怠管理はExcelを利用していました。申告の正確性に課題があっただけでなく、集計や確認にも時間と手間がかかっていました。
現在は出退勤をオンラインで打刻しています。休暇や残業などの各種申請と承認もオンラインで行われ、紙や押印は廃止されました。そして、集計もすべて自動化されています。
なお、2019年4月の改正労働基準法により、労働時間の正確な把握が義務化されています。また、2023年4月1日から中小企業でも月60時間超割増率の引き上げや、2024年4月から建設業にも他の業種と同様の時間外労働の上限規制が適用されるなどの法改正が続きます。従業員の勤怠管理を、より正確かつ手間なくおこなうためにも、ツールの導入がおすすめです。
また、給与明細はPDFの配布になりました。ペーパーレスの実現はもちろん、対面・郵送での受け渡しがなくなり、テレワークが定着した現在、欠かせない仕組みの一つになっています。
まとめ
今回は中小企業IT担当者さま向けに、「クラウドの基本」を、次の5つのキーワードで解説しました。
- クラウド
- オンプレミス(オンプレ)
- SaaS(サース)
- クラウド移行
- パブリッククラウド
自社管理のサーバーやパソコンなどのソフトウエア、プログラムを利用することを「オンプレミス」と呼ぶのに対し、ネットワークでつながったデータセンター上で動作したり連携したりするサービスが、「クラウド(サービス)」です。
クラウドサービスは利用形態により主に3つに分類され、ネットワーク上のソフトウエアやプログラムを利用できるサービスは、「SaaS(サース)」と呼ばれます。中小企業では主にこのSaaSが利用されています。そのほか、PaaS(プラットフォームの提供)やIaaS(インフラの提供)は、主にエンジニアの方々が利用するサービスです。
オンプレミスからクラウドへの移行(「クラウド移行」)は、パッケージソフトからクラウドサービスへの移行、サーバーからクラウドサーバーへの移行などがあります。
少し踏み込んだキーワードとして、「パブリッククラウド」を解説しました。
事業者が提供しているサーバーやソフトウエアなどを、ほかのユーザーと共有します。機能のカスタマイズ性は低い傾向にありますが、安価で管理の手間も少なく、中小企業にとって導入および運用ハードルが低いサービスです。
一方、企業が自社専用のクラウド環境を構築するするケースは「プライベートクラウド」、パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスを組み合わせるケースは「ハイブリッドクラウド」と呼ばれます。
最後に、浅間商事のクラウド化事例として次の3つをご紹介しました。
- メール、スケジュール共有
- ストレージ
- 勤怠管理、給与明細
自社の事例を振り返ると、クラウド活用により、データでの情報共有・連携がより容易になったと感じます。業務での共有、承認、連携といったプロセスにおいて、紙、押印、対面といった工数を削減し、人を介さないことで、データや業務の進行の正確性とスピードが上がったと考えております。
また、異なる端末や社外でもサービスを利用できるようになり、利用の柔軟性が上がったことも大きなメリットでした。当社のテレワークの定着にも、クラウド化は大きく貢献しました。
なお、クラウド化のメリットは、お客さまによって異なります。
管理するデータの質・量や、現在その業務にかかっている工数により、コストメリットの有無は千差万別です。一般的なクラウド(パブリッククラウド)には保存したくない機密情報がある、というケースも少なくありません。
さまざまなクラウドツールを導入したところ、結果的に管理が煩雑になってしまった、データが分散してしまったということも起こりえますし、利用していたクラウドサービスが突然終了してしまうケースもありますので注意が必要です。
浅間商事では、自社事例もご紹介しながら、中小企業のお客さまに合ったクラウド導入をご提案しております。ぜひお気軽にご相談ください。